有名中学校 校長先生ロングインタビュー

第11回 駒場東邦中学校・高等学校 平野 勲 校長

-2018.10.02

自主独立の気概と科学的精神をもった
次代のリーダーを育てる

駒場東邦中学校・高等学校 平野 勲  校長

Profile

駒場東邦中学校・高等学校 校長
平野 勲 先生
ひらの・いさお●1956年東京都生まれ。早稲田大学教育学部理学科数学専修を卒業後、都内私立高校の数学科教諭として教鞭を執り、91年駒場東邦中学校・高等学校教諭に着任。進学指導係主任、教務部長などを歴任後、2011年中学校教頭を経て、13年第8代校長に就任。

首都圏を代表する男子進学校、駒場東邦中学校・高等学校。
理系に強いイメージがあるが、設立以来一貫して文理に偏らない基礎的な学習を重視している。
すべての教科で「自ら考え、答えを出す」習慣付けを第一の目標に掲げ、
フィールドワークや研究論文発表など独自の取り組みを続けている。
「自主独立」の気概をはぐくむ実践的な教育について取材した。

※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第6号(2018年秋号)の特集を再編集したものです。

「かけがえのない仲間」と高め合うリーダーシップ

昨年、創立60周年を迎えましたね。

 卒業生の数も1万四千人を超え、さまざまな分野で活躍しています。本校は先輩後輩のつながりが非常に強いことが特徴で、世界中に広がるネットワークを駆使してさまざまな親睦活動を行っています。
 たとえば、同窓会組織「邦友会」が主催する生徒向けの講演会では、各界の第一線で活躍している卒業生が自らの仕事について語り、生徒が卒業後のキャリアについて考えるきっかけを提供しています。同窓会による人材育成基金を利用して、本校卒業後、医師や研究者、裁判官などとして社会のさまざまな分野で活躍しているOBを招き、ナマの言葉で語ってもらっています。講演終了後はどの講演者も生徒たちに囲まれて質問攻めにあっています。
 各企業の中に「駒東会」というOB会が結成されていることも多く、卒業後もかけがえのない仲間として集い、体育祭など共通の話題で盛り上がるようです。法律の分野では駒東法曹会という組織があり、弁護士として活躍するOBが毎年会合を開いています。

体育祭をはじめ、学校行事が活発なことでも有名ですね。

 春の体育祭、秋の文化祭、校内体育大会など中高合同の行事は、生徒の主体的な企画運営で行われます。学年の枠を超えて一緒に活動し、上級生が下級生の面倒をみることが伝統になっています。たとえば体育祭では、中学1年生は5歳年上の“お兄さん”から指導を受け、5年後には自分は5歳年下の“弟”を引っ張っていく。こうした縦のつながりが、リーダーシップの育成や多様な個性の尊重につながっています。

「自主独立」の精神で互いを刺激し合う

駒場東邦の生徒さんは学業でも大変優秀ですが、勉強だけでなく行事を通して心を育てることを大切にしているのですね。

 自主独立の精神を大切にしています。小学生までは親や先生の言われた通りにやってきたと思いますが、中高の6年間では自ら考えて行動してほしいと日頃から生徒たちに伝えています。その一例として、本校の部活動は、生徒による「行政委員会」が中心になって取り仕切っています。新しい部活動の設置や、活動条件を満たしていない部の廃部などを生徒議会で審議し、職員会議で承認されれば実現します。生徒がやりたいと思ったことを、みんなで知恵を出し合って実現できる自由があるのです。

#

研究旅行(中学3年)の論文集。文献調査とフィールド調査を
重ねながら、1年近くかけて論文を仕上げる。

修学旅行も生徒たちが行き先やプランを考えると聞いています。

 各クラスの代表生徒で構成された修学旅行委員が、テーマや行き先、行程を考えてプレゼンテーションを行い、それを見た生徒の投票結果によって決定します。瀬戸内海の島に民泊する、長崎で被爆体験を聞くといった、その年にしかない独自の旅行を創り上げていますね。自分で体験すること、本物に触れることで視野を広げ、日々の学習や課題発見につなげてほしいと考えています。

考えることを重視した独自のカリキュラムが特徴だそうです。

 まず中学3年間は、基本的な生活習慣や学習方法を身につけられるよう指導します。主要な教科では平常授業の中で小テストを行い、どこでつまずいているかを確認し、丁寧に指導する形をとっています。
 入学当初からレポート作成の課題を多く出し、6年間を通して自分の頭で物事を考え、探求する姿勢を養います。本校の定期試験では、授業では教えていない内容を出題することがあります。これもやはり、生徒に自分で考える力と直感力を磨いてほしいからです。生徒はそれまでに学んだ知識を総動員し、ひらめいた仮説をもとに答えを導き出す。「これとこれを組み合わせると答えに近づくのではないか」という発想が大切です。この繰り返しで力が伸びていくのです。失敗は怖いかもしれませんが、失敗を恐れずにチャレンジする経験が大学生や社会人になったときに大きな差になります。

理系に秀でた生徒さんが多いイメージです。理科実験教室が9室もありますね。

 中学1・2年では理科のほかに理科実験という授業があります。自分の眼や手を使って実験や観察をすることで実のともなった理解をしてほしいと思います。一人ひとりが実験に取り組めるようにクラスを二つに分割した少人数制で授業を行い、レポートの書き方もしっかり指導します。学年が上がると、自分でテーマを見つけ物事を探求していく姿勢を養います。自ら問題を発見して研究テーマを設定し、研究論文にまとめ上げる力は、理科だけでなく全教科で応用できます。大学生レベルの本格的な研究レポートを提出してくる生徒も珍しくありません。

例年、医学部へ高い合格実績を出しています。ほとんどの生徒さんが理系志望ですか。

 早い時期に「文・理」に偏ることはせず、高2終了時までは全員が理系数学に取り組み、古文・漢文も全員が学びます。高校3年生になってから文系・理系に分かれたクラス編成になり、文系2クラス、理系3クラスで、理系の40~50名程度が医学部を志望します。
 医学部志望者が多いのは、本校の生徒にとって医師が非常に身近な存在だからだと思います。本校の近くにある東邦大学医療センター大橋病院の先生方には健康診断などでお世話になっています。そして、マラソン大会や体育祭当日は本校の卒業生ドクターが救護所で待機してくれます。先日は「ブラック・ジャックセミナー」という模擬授業に参加し、生徒たちは実際に縫合手術などの体験をしました。医療の道に進んでいる卒業生が多いため、どの分野をめざすならあの大学の医学部がいい、といった進路情報を教えてもらえるのも生徒にとっては大きな利点です。
 また、本校の卒業生が研究員をしている縁で、駒場にある東京大学先端科学技術センターとの交流も行われています。最近では駒東生のためにロボットやAIについての特別講義をしていただきました。最先端の研究を間近で見ることで、自分がやりたいことを見つけてほしいと思っています。ただ大学進学を目標にするのではなく、「何のために勉強するのだろう」ということを考えてほしい。大学のその先に目標があれば、学習へのモチベーションも高まると思います。

「あなたはどう思うか?」を問う入試問題に込められた思い

中学入試では、とても長い文章が出題される国語をはじめ、独自のスタイルを続けていますね。

 文章内にちりばめられた要素を関係づけ、根拠にもとづいた読解力、借り物でない自分の表現力を測ろうとしています。小学生にとって、自分が体験していないことを想像して答えることは難しいでしょう。しかし日頃からご家庭で「あなたはどう思う?」「お母さん、お父さんはこう思う」と話し合っていただきたい。言語化されていない部分を読み取り、表現する力が重要です。

2017年度入試の算数で「今まで算数を学んできた中で、実生活において算数の考え方が活かされて感動したり、面白いと感じた出来事について簡潔に説明しなさい」という問題が出題されました。どのような意図ですか。

 初めて出合った問題にどう対応しますか?あなたならどうしますか?―という本校からのメッセージが込められています。ですから、自分ならこうします、ということが書ければいい。この問題に限らず、駒東の算数では、初見の問題にどう対応するかを見ています。基本的な内容を身につけた上で、それをどう応用させるかということですね。正解に辿り着かなくてもプロセスを評価しています。図形なら補助線をどこに引いたか、規則性の問題ならかっこよく解くのではなく地道に手を使って調べているか。そうしたプロセスもしっかりと評価し、公平に点をつけています。

採点が大変ですね。

 模範解答を何パターンも作り、採点基準も定めていますが、実際に採点をしていく中で「この答えにも点をあげるべきではないか」という意見が採点者から出てくることがあります。そうなると、これまでの答案をすべてひっくり返して採点し直す必要が出てきます。夜を徹することもありますが、小学生ならではの思いがけない発想を楽しみながら採点しています。

自ら考えて答えを出すという駒場東邦の学習方針が反映された入試問題といえますね。来年2月1日の入試に向けて頑張っている受験生の皆さんにメッセージをお願いします。

 駒場東邦はとにかく楽しい学校です。「駒東ファミリー」という言葉があるほど仲が良く、強い絆で結ばれています。仲間の存在によって自分の中に眠っていたものが目覚めていく。そんな経験を6年間でたくさんしてほしいと願っています。在校生・卒業生全員で待っていますので、ぜひ多くの受験生に本校をめざして頑張っていただきたいと思います。

取材を終えて―

TOMAS入試対策本部 本校長 松井 誠

p8東京大・医学部などに高い進学実績を上げている一方で、大学進学だけを目標にするのではなく、学校行事や地域との交流も盛んに実施していることに感銘を受けました。論文作成などの本質的な学習が高い進学実績につながっているのでしょう。


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