有名中学校 校長先生ロングインタビュー

第17回 慶應義塾普通部 荒川 昭 部長

-2020.01.09

慶應義塾普通部 荒川 昭 部長

Profile

慶應義塾普通部 部長
荒川 昭先生
あらかわ・あきら
●慶應義塾大学工学部数理工学科卒業。1986年より慶應義塾普通部にて数学科教諭として勤務。2018年4月より現職。2004年~2015年まで日本数学教育学会の幹事も務める。

今年で121年目を迎えた慶應義塾普通部。
90年を超える歴史をもつ労作展、2010年代から導入された国際交流やIT活用など、古き良き伝統と、これからの時代に必要な教育が共存している。
歴史、教育内容、クラス編成から入試の観点まで、普通部長の荒川先生にお話をうかがった。

※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第11号( 2019年冬号)の特集を再編集したものです。

基本的、普遍的な力を養う
120年を超える伝統校の学び

貴校は中等部でも中学部でもなく「普通部」という珍しい名称ですね。名前の由来や学校の歴史を教えていただけますか。

 1890年、慶應義塾の課程に「大学部」が設置されるにあたり、従来の課程を「普通部」と呼ぶことになりました。普通とは「普(あまね)く、通ずる」と書くとおり、人間誰もが身につけておかなければならない基本的、普遍的なことを指し、それを学ぶのが普通部です。1898年に普通部は5年間の中等教育課程になり、初等部から大学部までの一貫教育体制も整い、この年を普通部の発足年としています。
 当時は三田に校舎があり、日吉に移転したのは1951年のことです。本校の伝統行事である労作展は移転前の1927年に始まりました。

早速労作展の話が出たので、詳しくお聞きします。

 労作展の名前の由来はドイツの労作教育(知識偏重型ではなく、実際に手を動かして学ぶことを重視する)から来ています。生徒自らテーマを決めて一つの作品を一から完成させていくもので、90年以上続いている普通部の伝統であり、労作展に挑戦したくて本校を志望する生徒も多くいます。
 ある生徒は1年目に、私鉄の模型を制作しました。プラモデルとは違い、部品の一つひとつを自分で用意しなければいけません。シートの布は何を使うとよいか、網棚は何を使うとリアルに見えるかなど、細部にまでこだわった作品を完成させ入賞しました。
 翌年は難易度を上げて、リニアモーターカーの制作に挑戦したのですが、浮いて走行するシステムの再現に苦戦していました。強力な磁石を使えば成功するだろうと考え、業務用磁石を購入してきたのですが、反発が強すぎてうまくいきません。そこで所々SとNがくっつくように配置したところ、スムーズに走行するようになりました。
この生徒の場合は最終的にうまくいきましたが、成功ばかりではありません。二足歩行のロボット制作に挑戦した生徒は、実験を繰り返してデータをとりながらプログラミングを組みましたが、完成させることはできませんでした。しかし、試行錯誤を繰り返し、一喜一憂したその経験こそが生徒たちを大きく成長させるのです。このような試行錯誤には教科書から得た知識だけでは解決できないさまざまな力が必要になります。

今年はどのような作品がありましたか?

 実際に演奏に使えるチェンバロやギター、トリックアート、レコードプレーヤー、日吉の街を再現した模型などがありました。蝶の標本や清水寺の模型などは1年生の作品です。上級生に負けない立派な作品も数多くありました。労作展に取り組む期間は2~3カ月ですが、小学生のうちから企画を温めてきた生徒や、今年の労作展が終わるとすぐに次年度の構想を練り始める生徒も多く、1年近く費やした大作も少なくありません。

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今年度の労作展は9月22日、23日に開催された。写真は優秀作品を集めた特設ギャラリー。

学園祭に全力投球する学校は他にもありますが、個人の作品にこれだけ情熱を注ぐ機会があるのは珍しいですよね。慶應義塾大学の教授に助言を求めたり、設備を借りて研究したりすることもあるのですか。

 大学の先生に助言を求めに行く生徒もいます。中学生が教えを請いに来るのが新鮮で、可愛がってもらっています。外部の有識者や専門店などを訪ねたり、専門家に弟子入りしたりする生徒もいます。もともと関係性があってお膳立てされているところに行くより、断られるかも知れない中、自力で開拓していく生徒が多く、困難に立ち向かう力が育ちます。

卒業生の生きざまを肌で感じる
受け止め方は人それぞれ

目路はるか教室はどのようなコンセプトで開始されたのでしょうか。

 普通部の卒業生の中には、さまざまな分野の第一線で活躍されている方が多くいます。目路はるか教室はそのような卒業生の方々を講師に招いて行う特別授業です。学年別の全体講話と、20~30名程度にわかれて参加するコース別授業があります。コース別授業では、経済、医学、法曹、マスコミ、スポーツなど異なる10の分野の卒業生に3時間生徒たちを預けて、自身の人生観やこれまでの経験、仕事の面白みなどを語っていただきます。授業は多くの場合卒業生の職場で行われ、その分野の最前線の迫力を直接肌で感じながら、先輩の生きざまを学ぶのです。

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学年別の全体講義で使用する「目路はるかホール」

参加された生徒さんたちの反応はいかがですか。

 参加後には感想文を提出させているのですが、印象に残ったポイントや感じ方は生徒によって本当に違いがあります。自分の経験や価値観と照らし合わせながら自分が感じたことを素直に書いてくるので、読んでいて面白いですよ。以前は講師からの原稿しか載せていなかったまとめ冊子にも、生徒たちの感想文を載せるようにしました。

ここからは部活動や国際交流などについてお聞きします。

 本校では部会活動と呼んでおり21の運動部と15の文化部があります。多様な選択肢の中から自分が興味関心のある部を選びます。複数の部を掛けもちしている生徒もいます。なお、普通部では学業や学校行事・式典などを優先させており、活動日数は週3日まで、公欠は認めないなど制約も定めています。
 国際交流については2012年にフィンランド、2015年にオーストラリアの学校との国際交流プログラムを始めました。オーストラリアとの交流は、iPadを有効活用して授業を行っている学校の現地視察がきっかけです。日本語について学ぶ授業を見学していたところ、お互いの国にしかないものを英語で紹介し合うセッションに参加することになりまして、これはぜひ生徒たちにも経験させたいと思い、それから交流が始まりました。

貴校は内部進学者も多くいるため、中学から合流した場合にうまくなじめるか気にされる保護者の方も多いようです。入学後のクラス編成はどのように行われるのでしょうか。

 本校への進学者は定員240名中、幼稚舎からの進学者が毎年60~80名程度、残りの枠が中学受験の募集枠になります。仮に80名が内部進学、160名が受験とすると、1クラス24名中8名が幼稚舎出身。その8名が全員顔なじみかというと必ずしもそうではなく、幼稚舎は1学年4クラスあり6年間同じクラスで学ぶため、割合で言うと8名中2名しか同じクラスの生徒はいません。むしろ中学受験を経て入ってくる生徒の方が、塾で友人になっていたということも多いので、気にされる必要はありませんよ。

保護者の方の関心が高いテーマである入試についてお聞きします。各試験どのようなところを見ているのでしょうか。

 筆記試験は科目ごとに異なる部分もあるので一概には申し上げられませんが、詰め込んだ知識ではなく、これまでの生活の中で実際に見聞きした知識・経験を問うような問題を出しています。知識のための知識はいざという時に役に立ちません。本校を志望される方には、日頃からさまざまなことに興味関心をもって過ごしてほしいと思います。
 面接試験では教員が入れ替わり、受験生と1対1の面接を複数回行い、複数の教員の目で判断しています。内容はごく一般的なことを聞くようにしています。きちんと受け答えができるかを見ているので、必ずしも饒舌である必要はありません。
 体育実技では、例えば前転の課題ができなかったから即不合格というようなことはもちろんありません。挑戦する姿勢や協調性などを見ています。仮に運動が苦手だからといって、あまり深刻に捉える必要はありません。

最後に受験生に向けてメッセージをお願いします。

 個人として成長するには、他者からの刺激が不可欠です。仲間とお互いに評価し合い、心を通わせ、一生ものの関係性を育てていく機会が普通部にはあります。学ぶ意欲、成長意欲の高い受験生からの挑戦をお待ちしています。

取材を終えて―

TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠

p8普通部の労作展は中学受験業界でも有名ですが、直接作品を見て、制作者のエピソードもうかがうと、改めてすばらしい伝統行事であると実感しました。伝統校でありながらIT活用など新しい教育ツールも積極的に導入されており、今後の更なる発展が楽しみです。


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